成年後見制度の基礎|親のお金と契約で家族が困る前に知ること

親の介護が少しずつ現実味を帯びてくると、身体の介助だけでなく、「お金」や「契約」のことも気になってきます。

通帳の管理があいまいになってきた。公共料金や施設費の支払いが心配。介護サービスの契約を、本人だけで理解できているのか不安。もし認知症が進んだら、銀行口座や不動産の手続きはどうなるのだろう。

こうした不安は、家族の中でも話しにくいものです。

親のお金の話は、切り出すだけでも気をつかいます。台所でお茶を飲みながら「少し確認しておきたいことがあるんだけど」と言おうとして、結局そのまま言えずに終わってしまう。そんな日もあるかもしれません。

兄弟姉妹がいる場合は、「誰が管理するのか」「どこまで共有するのか」で空気が重くなることもあります。夫婦で親の介護を考えるときも、実の親のことは感情が入りやすく、義理の親のことは遠慮が出やすいものです。

成年後見制度は、判断能力が十分ではなくなった方の財産管理や契約などを支えるための制度です。

ただ、名前は聞いたことがあっても、実際にどんな場面で必要になるのか、いつ考えればいいのかは、少しわかりにくいかもしれません。

この記事では、介護が始まりそうな夫婦世代に向けて、成年後見制度の基礎をやさしく整理します。

すぐに制度を使うかどうかを決めるためではありません。

家族が困る前に、「こういう選択肢もある」と知っておくための記事です。

【この記事でわかること】
・成年後見制度の基本的な考え方
・介護で成年後見が必要になりやすい場面
・法定後見と任意後見の違い
・導入前に家族で話し合いたいこと
・相談できる窓口
・今日できる小さな一歩

目次

お金や契約が動かせなくなる前に選択肢を知っておく

成年後見制度は、「親のお金や契約が動かせなくなってから慌てて調べる制度」というより、できれば早めに選択肢として知っておきたい制度です。

成年後見制度は、認知症や障害などによって物事を判断する力が十分ではない方について、本人の権利や財産を守るために、法律的に支援する仕組みです。

大きく分けると、本人の判断能力が低下した後に家庭裁判所へ申し立てる「法定後見」と、本人が判断能力のあるうちに将来へ備えて契約しておく「任意後見」があります。

介護の場面では、生活費、医療費、介護サービスの利用料、施設入所の契約、不動産の管理など、お金や契約に関わることが少しずつ増えていきます。

最初のうちは、家族が通帳を預かったり、支払いを手伝ったりして、何とか進むこともあります。けれど、本人の判断能力が低下してくると、家族であっても自由に手続きできない場面が出てくることがあります。

【まず押さえたいこと】
成年後見制度は、家族が親のお金を自由に使えるようにする制度ではありません。本人の権利や財産を守り、必要な契約や手続きを法律的に支えるための制度です。すぐ使うかどうかより、まず選択肢として知っておくことが大切です。

たとえば、次のような場面です。

・銀行での手続き
・施設入所に関わる契約
・不動産の売却や管理
・介護費用の支払い
・本人に代わる契約や解約

こうした場面では、本人の意思確認や法的な権限が重視されます。

家族だから何でも代理できる、とは限りません。

この部分で戸惑う方は少なくありません。家族なのに、親のためなのに、なぜ手続きが進まないのか。そう感じてしまうこともあるでしょう。

けれど、お金や契約は本人の権利に深く関わるものです。家族の善意だけでは動かせない場面があるのは、本人を守るためでもあります。

もちろん、すべての家庭に成年後見制度が必要になるわけではありません。親の状態、財産の内容、家族関係、利用したいサービス、地域の支援体制によって、必要性は変わります。

だからこそ、早めに知っておく意味があります。

「まだ使うかどうかは決めないけれど、どんな制度か知っておく」
「親が元気なうちに、希望を聞いておく」
「家族だけで判断せず、相談先を確認しておく」

このくらいの距離感で大丈夫です。

制度をすぐ使うかどうかよりも、困ったときに慌てないために、まず全体像を知っておきましょう。

焦って決めないために、まず基礎を知る

成年後見制度は、家族の不安を減らす助けになる一方で、利用を始めると継続的な手続きや管理が必要になる場合があります。

たとえば、後見人等に選ばれた人は、本人の財産や生活状況を確認し、家庭裁判所へ報告する役割を担うことがあります。専門職が後見人等になる場合は、本人の財産から報酬が支払われることもあります。

そのため、「困ったからすぐ申し立てよう」と急ぐよりも、制度の特徴を知り、家族で話し合い、必要に応じて専門窓口に相談することが大切です。

特に大事なのは、成年後見制度は「家族がお金を自由に使えるようにする制度」ではないという点です。

あくまで、本人の権利や財産を守るための制度です。

後見人等が行う財産管理も、本人の生活、医療、介護、福祉のために必要な範囲で考えられます。家族にとって便利かどうかだけでなく、本人にとって必要か、本人の意思や生活をどう守るかが中心になります。

親のお金のことを考えると、どうしても不安が先に立ちます。

「介護費用は足りるのか」
「施設に入ることになったら、誰が契約するのか」
「口座が使えなくなったら困るのでは」
「兄弟姉妹から疑われないように、どう管理すればいいのか」

こうした不安を感じるのは自然です。

正直に言えば、お金の話はきれいごとだけでは済みません。親のためと思っていても、兄弟姉妹との関係や、自分たち夫婦の生活費、将来の不安が頭をよぎることもあります。

それを「考えてはいけないこと」と押し込めると、かえって苦しくなります。

ただ、その不安を家族だけで抱えていると、話し合いが感情的になりやすくなります。

まずは、制度の名前と大まかな役割を知る。次に、親の状況に当てはめて考える。必要なら、地域包括支援センターや市区町村窓口、家庭裁判所、専門職に相談する。

この順番で十分です。

夫婦で話すときも、「成年後見を使うかどうか」をいきなり決める必要はありません。

まずは、次のようなことを静かに確認するところから始めていきましょう。

・親のお金や契約で、今どんな不安があるか
・今後、困りそうな手続きは何か
・誰に相談できるか

真美

お金の話って、親にも兄弟姉妹にも言い出しにくいよね

信親

うん。だからこそ、焦って決める前に、まず制度の名前と相談先を知っておくことが大事なんだと思う

成年後見が必要になりやすい場面

成年後見が必要になりやすいのは、親の判断能力が低下し、お金の管理や契約を本人だけで進めることが難しくなったときです。

介護は、食事や入浴の手助けだけではありません。実際には、さまざまな手続きや契約が重なっていきます。

介護保険サービスを使う。施設入所を検討する。入院費や介護費を支払う。家の修繕や売却を考える。年金や預貯金を生活費に充てる。

こうした場面では、本人の意思確認や、契約内容を理解する力が関係します。

判断能力に不安がある場合、家族の「代わりにやってあげたい」という気持ちだけでは進めにくいことがあります。

その現実にぶつかったとき、家族は少し傷つくこともあります。親のために動いているのに、窓口で止まってしまう。説明を受けても、頭ではわかっているのに、心が追いつかないこともあります。

親のお金の管理で困ることがある

介護で詰まりやすいポイントのひとつが、親のお金の管理です。

たとえば、次のようなことがあります。

・通帳や印鑑の置き場所がわからなくなる
・キャッシュカードの暗証番号を忘れる
・公共料金や介護費用の支払いが滞る
・同じものを何度も買ってしまう
・不要な契約をしてしまう
・誰がいくら立て替えたのか、わからなくなる

こうしたことが続くと、家族は心配になります。

ただし、家族が勝手に本人の財産を動かすことは、後々トラブルにつながることがあります。たとえ介護費用のためであっても、兄弟姉妹や親族の間で疑問が出ることもあります。

「何に使ったのか」
「誰が管理していたのか」
「本人は本当に同意していたのか」

親のために動いていたはずなのに、家族関係がこじれてしまうのはつらいことです。

通帳の残高や支払いのことを確認するだけでも、どこか後ろめたく感じることがあります。親のお金をのぞき込んでいるようで、言葉にしにくい抵抗が残ることもあります。

けれど、見ないままにしておくと、支払いの遅れや不要な契約に気づくのが遅くなることもあります。

だからこそ、お金の管理に不安が出てきたら、家族だけで何とかしようとせず、早めに相談しておくことが大切です。

成年後見制度が必要かどうかは別として、「今の管理方法で大丈夫か」「他に使える支援はあるか」を確認するだけでも、家族の安心につながります。

施設入所や介護サービスの契約で困ることがある

もうひとつの大きな場面が、施設入所や介護サービスに関する契約です。

本人が契約内容を理解し、同意できる状態であれば、家族が説明を手伝いながら進められることもあります。

けれど、判断能力が低下している場合、契約の有効性や手続きで困ることがあります。施設側や金融機関、関係機関から、法的な代理権を確認されることもあります。

たとえば、次のような場面です。

・施設入所の契約を本人が理解できているか不安
・介護サービスの契約書を本人が確認できない
・医療や介護の支払いに本人名義の口座を使いたい
・本人の意思確認が難しくなっている
・家族の誰が契約に関わるのか、兄弟姉妹で意見が割れている

こうしたときに、成年後見制度が選択肢になる場合があります。

ただし、契約で困ったからといって、必ず成年後見制度が必要と決まるわけではありません。本人の判断能力の程度、契約内容、家族の支援体制、施設やサービス事業所の対応によっても変わります。

迷ったときは、地域包括支援センターや市区町村窓口、必要に応じて専門職に確認してみましょう。

施設やサービスの話は、親本人にとっても受け入れがたいことがあります。「まだそんな年じゃない」「自分でできる」と言われると、家族もそれ以上強く言えなくなります。

けれど、契約や支払いの問題は、気持ちだけでは進められない部分です。本人の気持ちを大切にしながら、現実の手続きも少しずつ確認していく必要があります。

不動産の管理や売却で困ることがある

親が一人暮らしを続けられなくなり、施設入所や子どもとの同居を考えるとき、空き家になる実家をどうするかが課題になることがあります。

実家をそのまま維持するのか。修繕するのか。貸すのか。売却して介護費用に充てるのか。

こうした判断には、本人の意思確認が大きく関わります。

不動産の売却や大きな契約は、家族だけの判断で進めることが難しい場合があります。本人が判断できない状態になってからでは、手続きが進みにくくなることもあります。

実家の話は、単なる資産の話ではありません。

柱の傷、使い込んだ食卓、古い玄関、親が長く暮らしてきた部屋。そこには家族それぞれの記憶があります。

だからこそ、売るか残すかという話になると、思っていた以上に感情が揺れることがあります。

もちろん、不動産があるから必ず成年後見制度が必要、というわけではありません。ただ、将来的に実家の管理や売却が課題になりそうな場合は、親が話し合えるうちに希望を聞いておくと安心です。

夫婦で話すなら、次のような穏やかな言い方からで大丈夫です。

「実家をどうしたいか、親に聞いておいたほうがいいね」
「施設費用が必要になったとき、どの財産を使うのか確認しておきたいね」
「兄弟姉妹にも早めに共有したほうがよさそうだね」

いきなり結論を出す必要はありません。

まずは、将来困りそうなことを家族の中で見える形にしておくことが大切です。

悪質商法や不要な契約への不安がある

高齢の親が、高額な契約をしてしまったり、訪問販売や電話勧誘に困っていたりする場合も、権利擁護の視点から支援が必要になることがあります。

たとえば、次のようなケースです。

・不要なリフォーム契約をしてしまった
・高額な健康食品や商品を何度も買っている
・電話勧誘を断れない
・契約内容を理解しないまま署名している
・家族が気づいたときには支払いが発生していた

こうした場合、成年後見制度だけでなく、消費生活センター、地域包括支援センター、市区町村の相談窓口などにつながることも大切です。

成年後見制度は、本人の権利を守る仕組みのひとつです。ただし、悪質商法への対応は状況によって相談先が変わるため、家族だけで判断せず、早めに専門の窓口へ相談しましょう。

親が不要な契約をしてしまったとき、家族はつい「なんで契約したの」と責めたくなることがあります。けれど、本人も不安だったり、断りきれなかったり、よく理解できないまま署名してしまったりすることがあります。

責めるより先に、何が起きたのかを整理する。そして、次に同じことが起きにくい形を考える。

そのほうが、本人も家族も少し落ち着いて向き合いやすくなります。

まずは「何に困っているか」を書き出す

ここまでの場面に当てはまるからといって、必ず成年後見制度を使うと決まるわけではありません。

大切なのは、困っていることを具体的にすることです。

【確認したいこと】
・通帳の管理が難しくなっている
・施設契約で本人確認が心配
・不動産の手続きが必要になりそう
・不要な契約をしてしまうことが増えた
・兄弟姉妹間でお金の管理への不安がある
・介護費用の支払い方法を整理したい

このように書き出してから相談すると、成年後見制度が必要かどうかを考えやすくなります。

夫婦で話すときは、「親のお金の話をする」と構えると重くなります。まずは、「困っている手続きを整理する」と考えてみてください。

誰かを責めるためではなく、親の暮らしと家族の関係を守るために、いま詰まりそうなところを見つける。

そのくらいの感覚で十分です。

真美

“お金の話をする”と思うと、どうしても重くなるね

信親

“困っている手続きを整理する”と思えば、少し話し始めやすいかもしれないね

成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」がある

成年後見制度は、大きく分けると「法定後見」と「任意後見」があります。

ざっくり言えば、法定後見は、本人の判断能力が低下した後に家庭裁判所へ申し立てる制度です。任意後見は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来に備えて契約しておく制度です。

この違いを知っておくだけでも、家族の考え方は整理しやすくなります。

制度名を完璧に覚える必要はありません。

「すでに困ってから考える法定後見」
「元気なうちに備える任意後見」

まずは、このくらいの理解で大丈夫です。

法律の言葉が出てくると、それだけで少し身構えてしまいます。けれど、最初から細かい内容まで理解する必要はありません。家族として大切なのは、「いつ考える制度なのか」を知っておくことです。

【確認しておきたいこと】
成年後見制度の内容や手続きは、本人の状態や家庭の状況によって変わります。制度の利用を考える場合は、地域包括支援センター、市区町村窓口、家庭裁判所、司法書士・弁護士・社会福祉士などの専門職に確認してください。

法定後見は、判断能力が低下した後に考える制度

法定後見は、すでに本人の判断能力が不十分になっている場合に利用を検討する制度です。

家庭裁判所に申し立てを行い、本人の状態に応じて「後見」「保佐」「補助」のいずれかに分かれます。一般的には、判断能力の低下の程度によって、支援の範囲が変わります。

・後見:判断能力を欠いているのが通常の状態とされる方
・保佐:判断能力が著しく不十分とされる方
・補助:判断能力が不十分とされる方

ただし、家族が「これは後見だろう」「まだ補助でいいだろう」と決めるものではありません。本人の状態、医師の診断書、家庭裁判所の判断などを踏まえて決まります。

法定後見の申し立てができる人には、本人、配偶者、一定範囲の親族などが含まれます。手続きの詳細や必要書類は、管轄の家庭裁判所の案内を確認する必要があります。

法定後見は、本人の判断能力が低下した後でも使える制度です。ただ、その分、家族が準備する書類や確認事項もあります。

いざ必要になってから慌てないためにも、「こういう制度がある」と早めに知っておくことが大切です。

申し立てという言葉だけで、少し大ごとに感じるかもしれません。実際、家族にとっては軽い手続きではありません。だからこそ、早めに概要を知っておくことで、必要になったときの戸惑いを少し減らせます。

任意後見は、元気なうちに将来へ備える制度

任意後見は、本人がまだ判断能力のあるうちに、「将来、判断能力が低下したらこの人に支援してほしい」と決めておく制度です。

本人と、任意後見人になる予定の人との間で契約を結びます。実際に効力が生じるのは、本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときです。

任意後見の特徴は、本人が元気なうちに、自分の希望を反映しやすいことです。

・誰に頼みたいか
・どのような事務を任せたいか
・どんな暮らしを大切にしたいか
・介護や医療について、どんな希望があるか

こうしたことを、本人の意思がはっきりしているうちに考えやすくなります。

ただし、任意後見も契約や手続きが必要です。公正証書での契約、家庭裁判所への申立て、任意後見監督人の選任などが関わるため、専門職や窓口に相談しながら進めることが大切です。

また、任意後見契約を結んだからといって、すぐに任意後見人が財産管理を始めるわけではありません。効力が始まる時期や任せる内容については、事前に確認しておきましょう。

任意後見は、元気なうちに話せる制度です。けれど、元気なうちだからこそ、話し出すきっかけが難しいとも言えます。

「まだそんな話は早い」と親に言われるかもしれません。自分自身も、親の老いを前提にした話をすることに、ためらいを覚えるかもしれません。

それでも、親の希望を聞ける時間は、いつまでも続くとは限りません。急がせる必要はありませんが、先送りしすぎない意識も大切です。

親が話し合えるうちに希望を聞いておく

親がまだ話し合える状態なら、制度の利用そのものだけでなく、暮らしやお金に関する希望を少しずつ聞いておくと安心です。

たとえば、次のようなことです。

・通帳や印鑑をどこに保管しているか
・どの銀行口座を使っているか
・介護費用はどの財産から出したいか
・実家を将来どうしたいか
・施設に入ることになったら、どんな希望があるか
・医療や介護について大切にしたいことは何か
・兄弟姉妹にどこまで共有してよいか

いきなり「成年後見をどうする?」と聞くと、親も身構えてしまうかもしれません。

最初は、次のような言い方で十分です。

「もし入院や介護が必要になったときに困らないように、少し確認しておきたいんだ」

「通帳や保険のこと、場所だけでも教えてもらえると安心だよ」

「お母さんの希望を、元気なうちに聞いておきたいんだ」

夫婦で親に話す場合は、実の子が中心になり、配偶者は横で支える形のほうが、空気がやわらかくなることもあります。

親のお金の話は、急に深く踏み込まないこと。でも、まったく触れずに先送りしすぎないこと。

その間を探すように、少しずつ話していきましょう。

一度で全部聞こうとしなくても大丈夫です。湯のみを置いたあと、少しだけ聞く。通院の帰り道に、ひとつだけ確認する。そんな小さな会話の積み重ねでも、あとで家族を助けてくれることがあります。

真美

親が話せるうちに聞くって、大事だけど簡単ではないね

信親

うん。一度で全部聞こうとせず、ひとつずつでいいと思う

導入前に考えることは「家族の合意・費用・続け方」

成年後見制度を考えるときは、申し立ての前に、家族の合意、費用、制度を使い始めた後の続け方を確認しておくことが大切です。

制度は本人を守るためのものですが、家族の暮らしや関係にも影響します。

特に兄弟姉妹がいる場合、次のようなことで意見が分かれることがあります。

・誰が申し立てるのか
・誰が後見人候補になるのか
・専門職に依頼するのか
・費用をどう考えるのか
・情報をどう共有するのか

また、成年後見制度は「申し立てたら終わり」ではありません。後見人等に選ばれた人は、本人の財産や生活の状況を確認し、必要な手続きや報告を続けていくことになります。

専門職が後見人等になる場合は、報酬が発生することもあります。

そのため、導入前に落ち着いて確認したいことがあります。

・本当に今必要か
・他の方法はないか
・続けられる形か
・本人にとって必要な支援か

制度を知ることと、すぐに使うことは同じではありません。まずは家庭の状況に合うかどうかを、相談しながら考えていきましょう。

本人の判断能力と困りごとを整理する

まず確認したいのは、本人の判断能力の状態です。

最近、契約内容を理解できているか。お金の出入りを把握できているか。同じ支払いを何度もしていないか。不要な契約や買い物が増えていないか。通帳や印鑑の管理ができているか。説明を聞いて、自分で選ぶことができているか。

ただし、家族だけで判断しきれないことも多いです。

認知症や精神状態の変化が疑われる場合は、主治医や専門医に相談することも考えましょう。薬の影響、体調不良、うつ状態などが関係していることもあるため、医療的な確認が必要になる場合があります。

次に、何に困っているのかを整理します。

・介護費用の支払いに困っている
・施設入所の契約が進まない
・銀行手続きができない
・不動産をどうするか決められない
・悪質商法が心配
・兄弟姉妹に説明できる形で管理したい

困りごとが具体的になると、成年後見制度が必要なのか、別の支援で足りるのかを相談しやすくなります。

親の状態を冷静に見ることは、簡単ではありません。できていないことを数えるようで、胸が痛むこともあります。

けれど、これは親を責めるためではありません。親がこれからも安心して暮らせるように、必要な支え方を考えるための整理です。

家族会議では“誰が悪いか”ではなく“何を整えるか”を話す

家族会議といっても、大げさな場をつくる必要はありません。

まずは夫婦で話すところからでも大丈夫です。兄弟姉妹がいる場合は、できるだけ早い段階で情報を共有しておきましょう。ひとりだけが手続きを進めると、後から不信感につながることがあります。

話し合うときは、次のような議題が役立ちます。

・親本人は、どんな暮らしを望んでいるか
・いま困っているお金や契約の手続きは何か
・誰が主に連絡や相談を担当するか
・兄弟姉妹間で情報をどう共有するか
・後見人候補を家族にするのか、専門職を検討するのか
・費用や報酬が発生する場合、本人の財産から支払えるか
・制度利用後の報告や書類管理をどう考えるか
・親の通院先や相談先を誰が把握しているか

ここで注意したいのは、「長男だから」「同居しているから」「近くに住んでいるから」と、ひとりに背負わせないことです。

介護もお金の管理も、長く続くほど負担が見えにくくなります。

最初は「自分がやったほうが早い」と思っていても、書類、電話、確認、説明が積み重なると、気づかないうちに疲れがたまります。

夫婦の中でも、実の親のことを配偶者にどこまで頼むのかは、丁寧に話しておきたいところです。

たとえば、実の子が親や兄弟姉妹との連絡を担当し、配偶者はメモの整理や相談先探しを手伝う。あるいは、通院付き添いは実の子、制度の情報収集は夫婦で分担する。

小さく分けるだけでも、負担の偏りは少し減らせます。

【夫婦で分けておきたいこと】
・親や兄弟姉妹に連絡する人
・制度や相談先を調べる人
・通帳や契約書類の場所を確認する人
・相談内容をメモする人
・主治医や地域包括支援センターに確認する人

話し合いでは、「誰がちゃんとやっていないか」ではなく、「何を整えれば親も家族も困りにくいか」に視点を置くことが大切です。

言い方ひとつで、話し合いの空気は変わります。

「どうしてやってくれないの」ではなく、
「ここを一緒に確認できるかな」

「誰が管理するの」ではなく、
「どう分担すれば続けやすいかな」

そんなふうに言い換えるだけでも、夫婦や兄弟姉妹の会話は少しやわらかくなります。

費用や報酬、運用の負担も確認する

成年後見制度を利用する場合、申し立てに必要な費用や、後見人等への報酬が発生することがあります。

具体的な金額や必要な手続きは、内容や地域、家庭裁判所の運用、専門職が関わるかどうかによって異なるため、事前に確認が必要です。

また、制度を使い始めた後は、本人の財産を適切に管理し、支出の記録を残すことが大切になります。

家族が後見人等になる場合も、「家族だから簡単」というわけではありません。書類管理や報告、判断に迷う支出の確認など、継続的な負担が出ることがあります。

一方で、専門職が後見人等になる場合は、家族の心理的な負担や管理の負担が軽くなることもあります。ただし、報酬や本人との相性、家族との連携の仕方なども考える必要があります。

どちらがよいかは、家庭によって違います。

大切なのは、「家族にとって都合がよいか」だけではなく、「本人の生活と権利を守るために必要か」という視点です。

制度を使えばすべて楽になる、というものではありません。逆に、使わないほうがよい場合もあるかもしれません。

だからこそ、費用や手間も含めて、現実的に続けられる形かどうかを確認しておくことが大切です。

家族の都合ではなく、本人の利益を中心に考える

成年後見制度を使うと、本人の財産を家族の都合で自由に使えるわけではありません。

家族への贈与や相続対策などを目的にした支出は、本人の利益として認められにくい場合があります。この点を知らないまま、「後見人になれば親のお金を動かしやすくなる」と考えてしまうと、あとで戸惑うことがあります。

成年後見制度は、相続対策のための制度ではありません。家族の希望を通すための制度でもありません。

本人が安心して暮らし、必要な医療や介護を受け、財産や権利を守るための制度です。

この考え方は、少し厳しく感じるかもしれません。

けれど、親のお金は親の暮らしを守るためのものです。家族の不安や事情ももちろんありますが、制度の中心にあるのは、あくまで本人です。

だからこそ、導入前に専門窓口へ相談し、「わが家の場合は本当に必要か」「他に使える方法はあるか」を確認しておくことが大切です。

【家族だけで判断しすぎない】
成年後見制度は、本人の権利や財産に関わる制度です。申し立てや契約、費用、後見人等の役割は家庭ごとに異なるため、地域包括支援センター、市区町村窓口、家庭裁判所、専門職などに確認しながら進めましょう。

相談先は地域包括支援センター・市区町村窓口・家庭裁判所・専門職

成年後見制度について迷ったら、家族だけで判断せず、地域包括支援センター、市区町村窓口、家庭裁判所、専門職の相談窓口などに確認するのが安心です。

制度の利用が必要かどうかは、本人の判断能力、財産状況、家族関係、困っている手続きによって変わります。

インターネットで調べるだけでは、自分の家庭に合う答えまでたどり着きにくいことがあります。

特に成年後見制度は、法律や家庭裁判所の手続きが関わるため、「何となく不安だから」だけで進めるより、相談しながら確認することが大切です。

調べれば調べるほど、かえって不安になることもあります。専門用語が並び、自分の家の場合はどうなのかが見えなくなる。そんなときは、ひとりで抱え込まず、相談先に聞くほうが早いこともあります。

最初は地域包括支援センターや市区町村窓口に相談しやすい

最初の相談先として使いやすいのは、市区町村の高齢者福祉や介護保険の窓口、地域包括支援センターです。

地域包括支援センターは、高齢者の総合相談窓口です。

介護保険、見守り、権利擁護、家族の困りごとなどを相談でき、必要に応じて適切な窓口につないでもらえることがあります。

たとえば、次のような段階でも相談できます。

・成年後見制度を使うべきかわからない
・親のお金の管理が心配
・認知症が進んできて契約が不安
・兄弟姉妹で話し合う前に、制度の概要を知りたい
・どこに相談すればいいかもわからない

市区町村によっては、成年後見制度の利用支援、権利擁護センター、中核機関、社会福祉協議会などが関わっている場合もあります。

名称や体制は地域によって違うため、住んでいる自治体の窓口に確認するとよいでしょう。

「まだ制度を使うと決めたわけではないのですが」と前置きして相談しても大丈夫です。最初の相談は、結論を出す場ではなく、道筋を聞く場と考えてよいでしょう。

手続きの確認は家庭裁判所や専門職へ

家庭裁判所は、法定後見や任意後見監督人選任の申立てに関わる窓口です。

申立てには書類や費用が必要で、家庭裁判所によって案内や手続きの流れが異なることがあります。来庁予約が必要な場合もあるため、管轄の家庭裁判所の案内を確認しましょう。

専門職に相談する方法もあります。

たとえば、司法書士、弁護士、行政書士、社会福祉士などが、成年後見制度や財産管理、家族間の調整について相談に応じていることがあります。

相談内容によって適した専門職は異なります。

不動産や相続、契約のことが中心なのか。家族間のトラブルが心配なのか。福祉サービスや生活支援との関係を知りたいのか。

迷ったときは、地域包括支援センターや市区町村窓口に「どこに相談するとよいか」を聞いてみるのもよい方法です。

専門職に相談するというと、少し大げさに感じるかもしれません。けれど、家族だけで判断して後から困るより、早めに確認しておくほうが安心なこともあります。

医療面では主治医にも相談する

判断能力の低下が疑われる場合は、主治医への相談も大切です。

たとえば、次のような変化がある場合です。

・もの忘れが増えた
・お金の管理が急に難しくなった
・判断が以前と変わってきた
・薬の影響や体調不良が心配
・認知症かもしれないと感じる

このような変化がある場合、認知症、病気の影響、薬の影響、うつ状態など、医療的な確認が必要になることがあります。

成年後見の申立てでは、診断書が関係する場合もあります。

制度の前に、まず体調や判断能力について確認することが必要なケースもあるため、主治医や専門医とつながっておくと安心です。

「年のせい」と片づけてしまう前に、一度医療の視点で見てもらう。それだけで、家族の受け止め方が少し変わることもあります。

相談前にメモしておくとよい3点

相談するときは、次の3点をメモしておくと話が進みやすくなります。

【相談前にメモしたいこと】

・本人の年齢、暮らし方、通院先、生活の困りごと
・銀行手続き、施設契約、不動産などで困っていること
・主に関わっている家族や兄弟姉妹との連絡状況

1つ目は、本人の状況です。

年齢、同居か別居か、認知症の診断の有無、通院先、生活の困りごとを書きます。

たとえば、「母は82歳で一人暮らしです」「父は認知症の診断はありませんが、最近もの忘れが増えています」「通院先は内科で、主治医はいます」「買い物や支払いの管理が難しくなってきました」といった内容です。

このくらいで大丈夫です。

2つ目は、お金や契約で困っていることです。

銀行手続き、施設契約、支払い管理、不動産、不要な契約など、具体的に書きます。

「通帳の管理ができなくなってきました」
「施設入所の契約で、本人の理解が心配です」
「実家の売却を考える可能性があります」
「訪問販売で高額な契約をしてしまいました」

このように、できるだけ事実で整理します。

3つ目は、家族の体制です。

主に関わっている人、兄弟姉妹の有無、連絡が取れる人、夫婦で分担できることを整理します。

「長女である私が主に関わっています」
「弟とは連絡が取れますが、まだ詳しく話せていません」
「夫婦とも仕事があり、頻繁な付き添いは難しいです」
「妻に事務手続きの負担が偏っています」

こうした家族側の事情も、相談してよい内容です。

完璧にまとめる必要はありません。

「まだ制度が必要かわからないのですが、親のお金の管理と契約が心配です」

この一言からでも、相談は始められます。

メモを書くとき、手が止まることもあるかもしれません。親の変化を文字にするのは、思っているよりしんどいものです。

それでも、書き出すことは親を責めることではありません。家族が少し冷静に相談するための準備です。

【相談できる先】

・地域包括支援センター
・市区町村の高齢者福祉窓口
・市区町村の介護保険窓口
・家庭裁判所
・主治医
・司法書士
・弁護士
・社会福祉士
・消費生活センター

まとめ:成年後見制度は困る前の情報収集が安心につながる

成年後見制度は、判断能力が十分ではなくなった方の財産管理や契約を支え、本人の権利を守るための制度です。

親のお金の管理が難しくなってきた。介護サービスや施設入所の契約が不安。口座や不動産の手続きが今後必要になりそう。認知症が進んだとき、家族だけで対応できるか心配。

こうした不安が出てきたら、すぐに制度を使うかどうかを決める前に、まず情報収集を始めてみましょう。

成年後見制度には、判断能力が低下した後に家庭裁判所へ申し立てる法定後見と、本人が元気なうちに将来へ備える任意後見があります。

どちらが合うか、そもそも今必要なのかは、本人の状態や家族の状況によって異なります。

導入前には、家族の合意、費用、継続的な運用、本人の希望を確認することが大切です。

特にお金の話は、夫婦や兄弟姉妹の間で気をつかう部分です。けれど、先送りにしすぎると、あとで手続きが進みにくくなることもあります。

【今日できる最小の一手】
親の住んでいる地域の「地域包括支援センター」または市区町村の高齢者福祉窓口を調べて、連絡先を控えておきましょう。すぐに相談しなくても、「どこに聞けばいいか」がわかるだけで、不安は少し整理しやすくなります。

すぐに申し立てる必要はありません。すぐに家族会議をまとめなくても大丈夫です。

まずは、「どこに聞けばいいか」を知ることから始めれば十分です。

余裕があれば、夫婦で次の3つだけメモしておきましょう。

・親のお金や契約で、今心配なこと
・親本人の判断や生活で、最近変わってきたこと
・家族だけでは難しくなりそうな手続き

成年後見制度は、家族を縛るためのものではなく、本人の権利と暮らしを守るための選択肢のひとつです。

使うかどうかを急いで決めるより、困る前に知っておく。

それが、親にとっても、支える夫婦にとっても、安心につながっていきます。

お金や契約の話は、どうしても気が重くなります。言い出せなかった日があっても、うまく話せなかった日があっても、それで終わりではありません。

今日できるのは、連絡先を控えることだけかもしれません。それでも、何も知らずに不安だけを抱えている状態からは、一歩進んでいます。

親の暮らしを守るために。そして、支える家族がひとりで抱え込まないために。

まずは、相談できる場所を知るところから始めていきましょう。

真美

使うかどうかを急いで決めるより、まず知っておくことが大事なんだね

信親

うん。家族だけで抱えず、制度と相談先を味方につける感じでいいと思う

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